トヨタ未来都市 ウーブン・シティ 日経新聞

トヨタの未来都市、2月23日着工「ウーブン・シティ」10の疑問 日経クロステック

 トヨタ自動車のスマートシティー「Woven City(ウーブン・シティ)」の建設が2021年2月23日に始まる。自動車メーカーである同社が街づくりを自ら手掛ける狙いは、新たな価値やビジネスモデルの創出だ。ウーブン・シティとはどんな街なのか、どんな技術を検証するのか。知っておきたい項目をまとめた。

Q1:Woven City(ウーブン・シティ)とは何か?
Q2:なぜ2月23日に着工なのか?
Q3:どんな街になるのか?
Q4:なぜトヨタ自動車が街づくりを手掛けるのか?
Q5:Woven City(ウーブン・シティ)という名称の由来は?
Q6:どんな人が住むのか?
Q7:どのような技術を検証するのか
Q8:どんな人や企業が参加するのか?
Q9:投資額は?
Q10:データのプライバシーは大丈夫?

Q1:Woven City(ウーブン・シティ)とは何か?

 トヨタ自動車が建設するスマートシティーのこと。20年1月開催の「CES 2020」において、同社代表取締役社長の豊田章男氏が構想を明らかにした。

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 実際の開発を担うのは、傘下のウーブン・アルファである。トヨタ自動車は21年1月、先進技術や新規事業の開発を手掛ける子会社のウーブン・プラネット・ホールディングスを設立。同社は持ち株会社の形態を取っており、ウーブン・アルファはその事業子会社の1つである。ウーブン・アルファにおいてウーブン・シティを担当するのが章男氏の息子である豊田大輔氏(同社代表取締役)という点も注目されている。

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 ウーブン・シティの場所は、20年末に閉鎖したトヨタ自動車東日本の東富士工場(静岡県裾野市)の跡地を利用する。将来的に約70.8万m2の範囲で街づくりを進める。

 都市設計は、デンマーク出身の建築家であるBjarke Ingels(ビャルケ・インゲルス)氏が担当する。同氏が創業したBjarke Ingels Group(BIG)は、米国・ニューヨークの「2 ワールドトレードセンター」や米Google(グーグル)の本社屋なども手掛けている。

Q2:なぜ2月23日に着工なのか?

 ウーブン・シティから程近い富士山(223)の語呂合わせだ。章男氏は「富士山の裾野に未来の新しい街をつくるとの思いで決めた」と語る。同日にくわ入れ式などを行う予定である。

Q3:どんな街になるのか?

 ウーブン・シティでは、150×150mの土地を1区画(原単位)として、各区画でさまざまな実証実験を進める。

 地上には、以下の3種類の道を設ける。

(1)自動運転車やゼロエミッション車などが高速で走行する自動車専用道
(2)低速で走行するパーソナルモビリティーと歩行者が混在する道
(3)歩行者専用の道

車両と歩行者の共存を図る(出所:トヨタ自動車)

車両と歩行者の共存を図る(出所:トヨタ自動車)[画像タップで拡大表示]

 (1)を走行する車両の例としてトヨタ自動車は自動運転EV「e-Palette(イーパレット)」を挙げている。

 地下にも物流用の自動運転車走行道を設置する計画である。

 加えて、以下のような取り組みも計画している。

  • 建物をカーボンニュートラル(炭素中立)な素材でつくる
  • 建物の屋根に太陽光発電パネルを設置する
  • 燃料電池などのインフラを全て地下に設置する
  • 室内用ロボットの新技術を検証する
  • センサーデータやAI(人工知能)を活用して健康状態のチェックなど生活の質を高める
  • e-Paletteを人や物の輸送、移動店舗などに活用する
  • 街の中心に公園や広場をつくり、住民同士がつながり合うコミュニティーを形成する
自動運転EV「e-Palette(イーパレット)」(出所:トヨタ自動車)

自動運転EV「e-Palette(イーパレット)」(出所:トヨタ自動車)[画像タップで拡大表示]

Q4:なぜトヨタ自動車が街づくりを手掛けるのか?

 CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)をはじめ、自動車業界を取り巻く環境は大きく変化している。こうした変化に備え、新しい技術やサービスを導入・検証する場としてウーブン・シティを活用していくという。プロジェクトの狙いについてトヨタ自動車は、「人々の暮らしを支えるあらゆるモノ、サービスが情報でつながっていく時代を見据え、この街で技術やサービスの開発と実証のサイクルを素早く回すことで、新たな価値やビジネスモデルを生み出し続けること」と説明する。

 ウーブン・シティについて、章男氏は「どこまでいっても未完成」と語る。「究極の目的は、安全なモビリティーをつくることと、人を中心にした街でモビリティーの未来をつくることだ。自動車会社だけでやるのではなく、多くのパートナーを募集し、共につくっていきたい」(章男氏)

Q5:Woven City(ウーブン・シティ)という名称の由来は?

 wovenはweaveの過去分詞形で、「織られた」の意味。トヨタ自動車によれば、網の目のように道が織り込まれ合う街の姿から名付けたという。グループの祖業である自動織機が由来ともいわれる。

Q6:どんな人が住むのか?

 まず、技術やサービスの「発明家」、およびその利用者である高齢者や子育て世代を入居させる。CES 2020では住民数を2000人程度と発表していたが、初期は360人程度となる予定である。

 高齢者や子育て世代を優先的に入居させるのは、「多くの社会課題を抱えている」(章男氏)からだ。これらの人々と発明家を一緒に住まわせることで、課題解決に向けた発明を促す。発明家には居住期限を設け、期限までに成果が出ない場合は別の発明家に交代させる。

 トヨタ自動車は、ウーブン・シティのパートナーをWebサイト上で募集している。20年11月時点で約3000の個人・法人から応募があったという。

Q7:どのような技術を検証するのか?

 トヨタ自動車は、ウーブン・シティで検証する技術として以下を挙げている。

  • 自動運転
  • Mobility as a Service(MaaS)
  • パーソナルモビリティー
  • ロボット
  • スマートホーム
  • AI

 ウーブン・プラネット・ホールディングスは、「Arene(アリーン)」と呼ぶソフトウエア開発環境の活用も見据えている。Areneによって自動運転ソフトなどの開発を効率化できる他、パートナー企業との協業もしやすくなるという。

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Q8:どんな人や企業が参加するのか?

 パートナー企業として、まずNTTが挙げられる。同社とトヨタ自動車は20年3月24日に業務資本提携を締結しており、目的の1つに「スマートシティーの実現」を掲げていた。両社は「スマートシティプラットフォーム」を構築し、ウーブン・シティや東京都港区品川エリア(品川駅前のNTT街区の一部)に先行的に実装する計画だ。

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 この他、トヨタ自動車はパナソニックと折半出資で20年1月に、街づくり事業を手掛ける合弁会社のプライム ライフ テクノロジーズ(東京・港)を設立している(その後、三井物産も少額出資)。この提携自体はウーブン・シティよりも前に発表されたものだが、パナソニックがウーブン・シティに参加する可能性もありそうだ。

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 発明家など入居者については、21年2月19日時点で明らかになっていない。今後、順次発表するとみられる。

Q9:投資額は?

 トヨタ自動車は、ウーブン・シティへの投資額を公開していない。20年5月12日開催の20年3月期通期連結決算説明会において、ウーブン・シティへの投資額を問う質問が出た際には、同社執行役員の近健太氏が「計画を詰めている最中」と回答していた。

 ウーブン・プラネット・ホールディングス傘下の投資会社であるウーブン・キャピタルは、スマートシティーや自動運転技術などでパートナーとなり得るスタートアップに投資することを目的にしている。運用額は8億米ドル(約846億円)である。

Q10:データのプライバシーは大丈夫?

 トヨタ自動車や、そのパートナーのNTTは、スマートシティーで得られるデータの扱いについて慎重である。「誰のためのデータなのか」(章男氏)、「データは囲い込まない」(NTT代表取締役社長の澤田純氏)と語っており、大量に集めた個人情報を利益に変える米Google(グーグル)との違いを明確にする。

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 実際、グーグルがカナダで進めていたスマートシティー開発計画はプライバシーの懸念を払拭できず、市民の反対を受けて頓挫した。GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon.com)のデータ独占に対する規制の動きが世界各国で活発化する中、トヨタ自動車やNTTの方針は有利に働く可能性がある。

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 トヨタ自動車やNTTがデータの「民主化」に向けて有望視している技術は、ブロックチェーンである。両社が開発しているスマートシティプラットフォームにおいても、同技術は重要な要素と位置付けられている。 

日経新聞クロステックより


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  • UDホールディングス株式会社
    代表取締役 大野美弥子